
あれから10年後のわたしたち

「ほんっとに、ミズカは子供の頃から、約束の時間に来たことがないんだからっ!」
あ〜またセイラを怒らせちゃった。
10年経っても遅刻癖は治らないなぁ。


この街は10年経ってもほとんど変わらないけど、川の対岸はきれいな高層ビルが増えた。
子供の頃に比べて、空の面積が狭くなってる気がする・・・。

一緒に学校をサボったセイラも、いつの間にか勉強ができる綺麗な大学生になっていた。
私は、ほとんど変わってないけどね。
二人で学校サボって、薄暗く狭い階段に座って話したことも懐かしい。
私が好きなこの狭い空間は、私の人生そのものなのかもしれないなぁ。

「そうだミズカ、大阪万博もうすぐやん」
うん、久しぶりに大阪が賑やかになるなあ。
万博の浮かれた明るさが、私には苦手やけど。

最近、スマホを片手に行き交う人々の姿が普通になった。
私には、彼らの無機質な表情が、見えない壁のように思えてしまう。
人情豊かな街の風情が、小さな機械に汚染されていくようで悲しいな。

「あのね、ミズカ・・・」セイラは話し難そうに、対岸の街で暮らすことになったと言った。
パパはIT技術者だし、セイラの将来を考えるなら当然だ。
私とは住む世界が変わるね・・・声には出さないけど、私の正直な気持ち・・・

良かったやん!・・・私は本心とは真逆のことを言ってしまった。
セイラは、近くだから何も変わらないって笑うけど。
私にはわかる。少しずつ友情が希薄になることを。



子供の頃、高架下の壁面に私達の絵を描こうって約束したっけ。
セイラは私に絵の才能があるって言ってくれるけど。
そんな自信はないよ。
セイラは私に「表現者の才能がある!」って言う。
表現者か、相変わらず上手いこと言うなぁ。
いつも彼女の言葉に背中を押されて、私は成長してきた。
うん、それもいいかもなぁ。

「表現者」として生きるのも悪くないな・・・
自分が大人になるほど、現実はそんなに自由でも無いことを知った。
でも年寄りが勝手に決めた階段を、無意識に上る馬鹿にはなりたくない。

人生の階段は、自分で決めて、自分の足で上ること。
この街がそう教えてくれた。
セイラと共に学んだこと・・・

「私は表現者ミズカの宣伝部長になるんだ。その才能を世界に広めるんだ」
それがセイラの夢なんだと。
夢は自分のために描くもんだよ、と言っても聞かないか、頑固だからなぁ。

自分らしく生きることは、とても難しいというけど、
私は私らしく人生を全うする。
その道は誰でもない私が決める。

「ミズカ、私ら、ずーーーっと、一緒な。
一生ずっと心友なんやから!」
いつものように、二人の約束を確認するようにセイラが笑顔で言う。
………..うん…..そうや…ね

創作ノート
心友-セイラ編-から10年後の物語。
大人になりつつあるセイラとミズカが、人生の分岐点に差し掛かったときの情景を描こうと企画して撮りました。
もともとmizukaさんは、この街のもつ独特な雰囲気と合うのですが、それだと物語写真として浅くなってしまうので、対象的なseiraさんと一緒の時代を生きる心友として登場させることで、物語に深みを出したつもりです。
被写体モデル/mizuka(卒業)
Instagram/@1.urfav.mizuka
撮影日/2025.1.11
撮影場所/大阪市
モデル撮影会主催/ ななサク撮影会 @nanasaku31

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